断熱性能と窓の関係…新築以外でも変えられるUA値
近年、住宅の断熱性能は著しく進歩してきました。新築住宅はそのほとんどが高い断熱性を備えています。一方、築20年以上になると、十分な断熱性が備えられていない住宅も少なくありません。
断熱性を高める為に、築20年程度の家を建て替えるなどは非現実的ですが、窓を見直すことで住宅全体の断熱性能を向上させUA値を高めるという方法は現実的です。
窓の見直しでUA値を高められる理由
UA値とは外皮平均熱貫流率のことです。外皮とは屋根、外壁、開口部、床など、外気に接する部分の面の全てです。開口部とは窓や玄関、勝手口、テラスドアなどの家の中と外を繋ぐ部分です。
このすべての面からの熱が出入りする率を現わす数値がUA値です。UA値が低いほど、熱の出入りが少ない家、つまり断熱性が高い家であり、省エネ性に優れた家です。UA値の計算は建物が失う熱の量を外皮全体の面積で割って求めます。
その為、最も面積の広い外壁や、最も太陽に近い屋根から熱が出入りしてしまう家は、断熱性を高めることはできないのでは…?もしUA値を低くし、断熱性を高めたいなら、外壁の外張り断熱や屋根の断熱塗装をする方が効果を高いのでは?と考える人もいらっしゃるでしょう。
もちろん、屋根、外壁、床、開口部を全て断熱する方法が最も効果の高い方法です。ただ、非常に高額な費用と日数がかかります。一方、外皮全部を断熱するのではなく、部分的な断熱であれば、予算を抑えられます。ただし、予算を抑えたからといって十分な効果が得られなければ、意味がありません。
では、外皮のうちのどの部分を断熱することが最も効果をあげるのでしょうか?その答えは窓です。家中の窓の面積を合わせても、特殊な設計の建物以外一般的な住宅では、外壁や屋根、床の面積には到底及びません。
それでも、夏、家の中の室温を上昇させる太陽の熱のうち、70%以上が窓を通して入ってきます。冬には、50パーセント以上の熱が窓から逃げていきます。つまり、窓の断熱をするということが最も効果的に住宅の断熱性を底上げするのです。その結果、少ないエネルギーで快適な室温が維持できるようになり、快適と省エネが同時に実現します。
参考サイト 経済産業省 資源エネルギー庁 住宅による省エネ
日本の住宅が寒いと言われてきた理由とUA値からQ値に変わった理由
日本は湿度の高い時期が長く続く気候です。そして、個人の住宅として庶民に親しまれてきた木造住宅は、湿度によって腐朽する恐れのある住宅です。地震の多い日本において、構造部の木材が腐朽してしまえば、いつ倒壊してしまうかわからない家になってしまいます。その為、昔の人の知恵で、日本の住宅にはたくさんの窓が設けられていました。
近年、都市部では窓の少ない住宅も増えていますが、農家や現存する古民家には、掃き出し窓がずらっと並んだ窓の多い住宅があります。このような住宅は、夏、窓や玄関の引き戸を開放して風を通せるため、涼しく、換気の良い状態が維持できます。同時に冬は、隙間風と底冷えのする寒い家でもありました。
さらに、日本は海外に比べて窓の断熱に対して目を向ける時期が遅かった為、いまだに寒い家は存在します。まだ窓の断熱がそれほど普及していなかったという時期に建てた家でも、現在の家ほどではなかったとしても、壁や床は断熱されているはずです。昭和55年から、省エネルギー対策等級や、旧省エネ基準が定められていたからです。ただ、窓の断熱化に対する意識は低かったため、壁や床の断熱はしても、窓はアルミサッシと板ガラスという窓が多く採用されていました。
当時はUA値ではなく、Q値が基準の数値として採用されていました。Q値は、家の中から熱が逃げる量を延べ床面積で割って導き出す数字です。低いほど断熱性が高いという面ではUA値と同じです。ただ、UA値の外皮全体の面積と比較すると、Q値は、延べ床面積で割ります。その結果、同じ断熱性能を持っていたとしても、家が広くなるほどQ値が低くなり断熱性能が高く評価されてしまいます。その為、より公平な評価を導き出す為、平成25年の法改正で省エネ基準としてUA値が採用されるようになりました。
UA値は地域によって定められている基準が異なります。新潟県のほとんどは地域区分4に属しているので、基準UA値は0.75です。十日町市(旧中里村)魚沼市(旧入広瀬村)津南町は地域区分3、基準UA値は0.56です。このUA値の基準を満たす家にする為に、最も低予算、短期間でできる断熱対策は窓と玄関の断熱化です。
参考資料 国土交通省 【参考】住宅における外皮性能
開口部を断熱化する方法
住宅の開口部は窓と玄関や勝手口、テラスに設けられているドアや引き戸などの出入り口です。最も理想的な方法は、開口部すべてを断熱化するという方法です。ただ、予算の関係から優先順位をつけるなら、断熱だけという面から考えた場合、窓が最優先です。
開口部を全て断熱化するということは、熱の出入りする場所のほとんどを失くして家の中を魔法瓶のような状態にするということです。その為には開口部に2つの要素が求められます。
ガラス面とサッシ面からの熱の出入りを妨げる
窓やドア、引き戸に使われているガラスとサッシを断熱機能のあるガラスとサッシに変えることで、面からの熱の出入りを妨げます。ガラスとサッシの種類によって断熱性能の高さが変わります。
ガラスの種類
ガラスには、単板ガラス、2種類のLow-E複層ガラス、2種類のトリプルガラスがあります。
- 単板ガラス 断熱性はありません。窓の断熱ということが考えられていなかった時代には、すべての住宅の窓がこのガラスでした。
- 複層ガラス 2枚のガラスの間の空気層が熱の伝わりを妨げるガラスです。
- Low-E複層ガラス 2枚のガラスのうち1枚にLow-E金属膜がコーティングされているガラスで、複層ガラスより高い断熱性があります。遮熱性を併せ持つタイプもあります。
- トリプルガラス ガラスとLow-E金属膜がコーティングされているガラスを取り混ぜて、3枚のガラスで構成されているガラスです。現時点において最も断熱性能が高い世界基準のガラスです。Low-E金属膜がコーティングされているガラスの数によって、高断熱タイプと遮熱タイプに分けられます。
サッシの種類
サッシにはアルミサッシ、アルミ樹脂複合サッシ、樹脂サッシがあり、種類によって断熱性能が変わります。
- アルミサッシ 断熱性のないサッシです。軽くて扱いやすく安価なので、窓の断熱ということが考えられていなかった時代にはすべての住宅がこのサッシでした。ガラスだけ交換した場合、サッシからの熱と隙間風の出入りは抑えられません。その為、結露の発生や隙間からの冷気の侵入は解決できません。
- アルミ樹脂複合サッシ 室内側に樹脂、室外側にアルミが組み合わされたサッシです。樹脂サッシは優れたサッシではありますが高額です。家中の窓を樹脂サッシとトリプルガラスの窓にすると、窓の数にもよりますが数百万円の費用が発生します。その結果、窓の断熱化をあきらめるというようなことにならないよう開発されたサッシが、アルミ樹脂複合サッシです。樹脂サッシほどではありませんが、面からの熱の出入りを抑えられることに加え、隙間風は解決できます。
- 樹脂サッシ 樹脂とアルミの違いは熱伝導率と気密性です。樹脂は熱を通さないので高い断熱性を備えているわけですが、気密性も高めます。アルミサッシの場合、ガラスとサッシが組み立て式なのでどうしても隙間が生じてしまいます。樹脂サッシとアルミ樹脂複合サッシはガラスとサッシが溶接されている為、ガラスとサッシの間からの熱や隙間風の出入りがありません。さらに、樹脂には柔らかさがあるのでレールとサッシ、窓枠とサッシの間の気密性も高まります。
窓は陽射しと風、外の景観を家の中に採り入れる、雨や風、外部の砂ぼこり、騒音を侵入させないという役目を果たしています。さらに窓の機能によっては、熱の出入りを防ぎ、住宅の断熱性を高める働きもします。そしてそれぞれの働きの効果は、サッシの種類、窓の種類によって変わります。サッシや窓の種類と働きの違いとはどのようなことなのでしょうか?
コラム サッシで変わる窓の種類と特徴
最も効果が高い方法は、すべての窓を樹脂サッシとトリプルガラスにすることですが、Low-E複層ガラスと樹脂複合サッシの窓に変えるだけでも、かなりの効果を上げてUA値を抑え、住宅の断熱性、省エネ性を向上させられます。
夏は暑く冬は寒いけれど建て直すこともできないし仕方ない…とあきらめていませんか?高額な費用をかけなくても住宅のUA値は変えられます。一時に家中の開口部を断熱化しなくても、今年はリビングと浴室、来年は寝室と子ども部屋、その次は玄関というように、順に断熱化していくという考え方もあります。また、開口部の断熱化をする際には補助金も活用できます。
国や自治体から補助金が出る断熱リフォームのうち、玄関ドアと窓のリフォームは、現時点で申請できる補助金が一つしかありません。こどもみらい住宅支援事業の補助金です。窓のリフォームに関しては、【全国対象】既存住宅における断熱リフォーム支援事業が6月から開始されています。
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